元気八尾再生~まちづくり達人に聴く~
様々な場面でご活躍の方々との対談を通して、たくさんの刺激を頂戴しながら、新しい八尾を創造してまいりたいと考えております。
今回のまちづくり達人
立正大学教授・社会学博士
小宮 信夫(こみや のぶお)さん
<小宮 信夫(こみや のぶお)氏プロフィール>
立正大学文学部社会学科教授(犯罪社会学)。社会学博士。
犯罪社会学の専門家として、危険予測の方法について全国で普及活動を行っている。本市でも地域安全マップづくりなど、地域安全活動のアドバイザーとして活躍。
安全・安心なまちづくりには地域力が重要
市長:本日は早朝から八尾市にお越しいただきまして、どうもありがとうございます。先生には以前から八尾市の地域安全マップづくりにご協力をいただいておりますが、教授の専門の「犯罪機会論」も含め、八尾市がより安全・安心なまちとなるためにどう取り組んでいけばいいのか、お聞かせいただければと思っておりますので、よろしくお願いします。
小宮:こちらこそよろしくお願いします。
市長:さて、教授もご承知のとおり、非常に残念なことですが、八尾市はひったくり等犯罪発生件数の多いまちで、防犯対策は市政の重要な課題となっています。このような中で教授が地域の方と一緒になって進めていただいている地域安全マップづくりは、非常に効果のある取り組みだと思っています。
小宮:地域安全マップは、実のところ地図を完成させることが目的ではないのです。地図づくりを通じた活動によって、地域住民同士のネットワーク、コミュニケーションを活発にしていくことが重要なんです。地域の連携がうまくいけば、防犯以外にも地域が抱える課題、例えば防災や介護といった課題解決にも発展していきます。そのことに気付けばいいのですが、残念ながら大阪府内でも、あまりそういう意識はまだまだ少ないです。
市長:地域安全マップで示される危険箇所は、やはり地域と行政が一緒になって改善しなければならないと思っています。犯罪のない安全・安心なまちづくりを進める上で、行政の力だけでは解決は難しく、各家庭・地域での取り組みが必要不可欠です。改善すれば、また違った危険箇所が出てくるかもしれませんが、改善を繰り返すことで「地域はより安全になっていくのでは。」と思っています。
また、子どもの安全・安心を考えた場合、子どもたちが地域の色んな人たちとコミュニケーションを図ることによって安心感を持っていただくことが必要だと思うのですが。
小宮:子どもへの挨拶運動は、各地でよく行われていますが、逆方向にいって、挨拶をしなくなっているんです。と言いますのは、学校にしろ、地域にしろ、あるいは行政にしろ、安全に対する対策が間違った方向に進んでいるからなのです。その典型が「不審者に気をつけなさい」といった人に注目する手法で、私が以前から否定している手法です。
多くの自治体、学校、地域等で取り組んでいる防犯対策は「不審者に注意」という「人」に着目する手法を行っていますが、これは間違っています。「不審者に注意」という意識づくりは、まわりにいる人すべてが不審者に見えてくるようになります。その結果、互いに人間不信に陥り、地域のきずなを失わせるとともに、人権侵害まで引き起こすことになりかねません。
具体的な例でいいますと、子どもたちに「不審者に注意しなさい」と言うと、まず、最初に子どもたちはマスクやサングラスをしている人が不審者だと思ってしまいます。次にそうではないとなると、外国人も不審者だという話になるんです。それでも違うとなると、もう結局、見ただけでは判断できませんので、地域の大人みんなを不審者にしようという子どもの意識なんですね。ですから、ちょっと声を掛けただけで走って逃げてしまうとか、防犯ブザーを鳴らされるとか、場所によってはそのまま捕まってしまい、裁判になった例もあるんです。そういうご時世ですから、大人側からすると、うかつに子どもに声を掛けられない。非常に寂しく、悲しい状況になっています。「人」に着目する限りは、行き着く先はそこなんです。
市長:私と教授は同じ年代ですから、地域のたくさんの人たちに助けられたというか、やはりおっちゃん、おばちゃんと仲良くするという経験が、たくさんありますが、現在では本当にそういったことが少なくなっているのではないかと思います。
小宮:今も昔も地域の人は99.9%いい人ばかりです。でも今は、そういったイメージが、なかなか持てない世の中になってしまい、そうしたギャップがあるんです。学校側もよくないところがあって、不審者に気をつけましょうとやってしまっているところに、最大の問題点があります。私が進めている地域安全マップはそうではなく、大事なのは「場所」だけ、「人」には一切注目しない手法です。
地域力・市民力
市長:私が着目しているのは、市民力、地域力です。やはり市民と企業と行政がきちっとタイアップできる仕組みを全面的に打ち出していきたいと思っています。
その一つですが、市内に市役所の出張所が全部で10箇所ありますが、そこへ若手課長補佐を新たに各1名ずつ配置しました。全箇所に配置することによって、職員が地域の住民の皆様と色々話し、そこから課題を見つけ出す。そして地域課題をきちっと整理をしながら地域カルテをつくる。そういった課題が全体的に集まってくると、八尾市全体の課題も見えてくるだろうし、地域との連携がさらに深まると思っています。
そのことがまちの安全・安心につながると考えています。八尾市では地域の防犯・防災を推進するために市が設置している「地域安全・安心のまちづくり基金」がありますので、地域の皆様方に積極的に活用いただき、みんなが安心できる地域づくりにつなげていただきたいと思っています。
それから、もう一つ、地域安全マップづくりと並行して、平成20年度から市内全小学校で、子どもたちが自分の身を自分で守る技能を身につけてもらうCAP(キャップ)プログラムの導入を進めています。
小宮:実はCAPにも大きな限界があります。何故かといえば、CAPは防犯ブザーの延長線上であり、犯罪者が襲ってきたときにはじめて、CAPプログラムが生きるものだからです。八尾市のように地域安全マップと並行して行うのが一番良いのです。と言いますのも、地域安全マップは、犯罪者に襲われないためのものです。子どもが今襲われたときにどうしようかと、例えば大声を出すという訓練をCAPでやっていますが、子どもがだまされて連れて行かれるケースが圧倒的多数です。そういった場合、子どもは大声を出そうと思わないですから、効果がないのです。犯罪者も場所を選んできますから、危険な場所をまず子どもに知らせないと、いくら防犯ブザーを持たせようが、CAPをやろうが、まったく無効になってしまうんです。そのことを学校もよく理解した上で教えないと、十分な対策をしたつもりになってしまう危険性があります。
市長:2つセットですべきなんですね。
小宮:襲われない方法と襲われたときの方法は、両輪ですべきであるのに、襲われた方ばかりやっているんです。CAPを教えるのもいいんですが、CAPを使わずにすむ知識も一緒に教えるべきです。
市長:教授が犯罪の発生要因として「場所」に着目されたきっかけは何ですか。
小宮:私が以前、海外に留学した当時、犯罪機会論という「場所」に注目する手法は日本にはなかったんです。たまたま留学先で教わった教授がそういうことをやっていて、これは日本にない発想だと興味を持ったのが始まりです。
市長:俗にいうプロファイリングみたいな感じですか。
小宮:日本のプロファイリングは、どのようなタイプの人間がこの事件の犯罪者なのかというものばかりをやっているんです。しかし、実際のプロファイルは3つあります。まず1番目は人です。2番目はどこに住んでいるかを推定します。私がやっているのは3番目の犯罪機会のプロファイリングで、次の犯罪がどこで発生するのか、予測していくんです。これが日本ではまったく行われていなかったんです。プロファイリングの1番目と2番目、犯人がどこに住んでいる、どんなタイプかは警察がすることであって、市民がすることではありません。市民はどこの場所に注意すれば被害にあわないのかという3番目をやるべきなのに、マスコミは1番目の人ばかり着目して報道しているので、市民の関心もそっちにいってしまうんです。
地域安全マップづくり
市長:教授にご協力をいただいています地域安全マップづくりもそうですが、専門家の意見を聞くことで行政や地域住民が気付くことがたくさんあります。
小宮:そうですね。さっき市長がおっしゃられた市民力も、結局、その正しいノウハウを提供してあげないと、や
る気だけあっても、間違った方向にいけば困りますから。自分たちの地域は、自分たちが一番よく知っているわけです。行政がああでもない、こうでもないとい
うより、自分たちで行動した方がよほど実りある解決策ができるはずです。しかし、どの場所に注意すればいいのか、それを見抜く力が一般の人にありません。
そのノウハウを提供する専門家が地域にいませんから、その橋渡しをしていくのが行政の役割だと思います。
市長:具体的に地域の危険箇所についてなんですが、危険すぎると自ら警戒しますよね。例えば、JR八尾駅や近
鉄河内山本駅は、駅のすぐ前で、バスや車が行き交っていて交通的には危ないんですね。でも事故は少ないんです。それはやはりみんながここは危ないという認
識をし、常に意識しているからなんでしょうね。
小宮:犯罪もそうなんです。誰が見ても危ない場所は誰もが注意するんです。犯罪はそういうところではなく、みんなが油断しているような、まさかこんなところでという場所で犯罪が起きるんです。
そ
こで、私は地域安全マップづくりにより、地域住民の方に犯罪が発生しやすい「場所」の客観的な基準を示し、地域の危険箇所の洗い出し作業を住民自らが協力
し合い、実際に現地も確認しながら行うように進めています。マップづくりを通じて、危険箇所が意外にたくさんあることが住民の共通認識になることで、注意
喚起につながるとともに、防犯に対する地域住民の連携も深まります。誰が見ても危ないところはマップづくりをする必要はまったくないんですよ。おっしゃる
とおり、みんな注意しますので。
市長:教授に八尾に深く関わっていただいていますが、教授から見て八尾は変わってきたなというふうに見えますでしょうか。いかがですか。
小宮:八尾市だけでなく、八尾の力で大阪を変えてもらいたいというのが私の願いなんです。八尾市以外は、欧米
で成功した「場所」に着目する防犯の取り組みに、まだまだ気付いていないんです。不審者に着目する方向性を何とか変えていただきたい。全国的にも気付く自治体が少ない中で、率先して取り組んできたのは八尾市なんです。
市長:教授のご指導により、一つ一つ問題点が改善され、防犯意識も着実に高まってきています。今後も、安全・安心な住みよいまちづくりを目指しがんばっていきたいと思っていますので、教授には引き続き今後もお力をお貸しいただきますようお願いします。
小宮:八尾市に期待しています。