今回のまちづくり達人
大学教授 内海 成治(うつみ せいじ)さん
市長:本日はお忙しい中、八尾市にお越しいただきまして、ありがとうございます。さて、先生は、国際教育協力論や国際ボランティア論などをご専門に携わっておられますが、本日は、「ボランティア精神を育むまちづくり」をテーマに先生の経験談も交え、お話を聞かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
内海:よろしくお願いします。
市長:現在、八尾市では45カ国の外国籍の方が住んでいます。市の人口が27万3000人。その内、約7000人が外国籍で、全人口の3パーセント近い人が、八尾市民として住んでおられます。市長をしておりますと、海外から多くの方が訪ねて来られることもあります。アフリカのケニアの総領事も来ていただきました。双方の交流を深めるため、向こうの学校と八尾の学校で文通を始めることはできないか、現在、教育委員会と調整をさせていただいています。
それから、ケニア以外にも、ブルネイの教育長やベトナムの領事も来ていただきました。八尾市には新たに生活を始められた外国人の方も多く、生活を始めると、子どもはすぐに語学を学びますが、親御さんがそうはいかないケースがあります。
例えば、子どもが病気になり、病院に行った際に対応できないとか、市役所や学校から来る文書が読めず、どう対応していいのか分からないといったトラブルもあります。
また、生活習慣や文化の違いから近所でもめることもあります。それらに対応できるように、現在、市役所に中国語とベトナム語の相談員を配置しています。それから八尾市には国際交流センターがあり、外国人と日本人との交流を進めておりますので、そういう意味では、八尾市は非常に国際色が豊かで、先生のご専門の国際教育が、この八尾の中で体験できます。
また、八尾は全国でも有数の「ものづくり」のまちですので、市内企業も海外へ進出していますし、米国のベルビュー市とは姉妹都市として、中国の上海市嘉定区とは友好都市として、市民レベルの国際交流を行っています。現在は、韓国の大邱広域市中区との交流も進みつつあります。
内海:八尾市では新しい試みや重要な試みを色々となさっているんですね。
市長:実は先日、国際ボランティアとして、アフリカのザンビアに行く若者とネパールのカトマンズに行く若者が、それぞれ市役所を表敬訪問してくれました。もともと地域のボランティア活動や技術者として活躍し、さらに自分に何かできることがないかという考えから、海外を選んだと聞いています。若者と話をしながらその熱意とボランティア活動の素晴らしさを感じました。本市にはボランティア教育の活動を長年されているNPOもあり、多彩な活動をしていただいておりますが、最近、「ボランティア」の定義も難しいですよね。
内海:ボランティア学という本では、色々と定義が書かれております。「無償」か「有償」かとか、よく言われていますが、ボランティア活動は奉仕活動とは少し違うと私は思っています。「奉仕」というと何となく無償の肉体労働というイメージが強いですが、ボランティアはそうではなく、自発的にやるということだと思うんです。ボランティアをすることで、する人も受ける人も互いに学び合う、心が通じ合うということが非常に重要なところです。
日本では、子どもたちが地域に出ていくことをボランティア教育、ボランティア学習と言っておりますけど、アメリカでは、ソーシャル・サービス・ラーニングという言い方をしています。現在では全米のほとんどの学校でサービス・ラーニング・コーディネーターというのをつくり、子どもたちをどうボランティア活動に参加させていくのか、国をあげて運動をやっているのです。ボランティアを受け入れることは、人の世話になることではなく、ボランティアとの心の交流ですから、互いに学び合う、そこが大切であって、ボランティアを経験した人は、逆にボランティアを受け入れることもできるんです。
神戸の震災の後に、私が担当した学生たちがボランティア活動をテーマに卒業論文を書きましたが、異口同音に言っています。「ボランティアをすることによって逆に、自分がもらうものの方が大きかった」と。例えば、寝たきりの高齢者にしても、その人のちょっとした笑顔や握りしめてくれる手の温もりが、私たちに生きる勇気を与えてくれる。その人たちが決して受身だけの存在ではないということをボランティア活動の中で気付いていくんです。得るものが非常に大きいのがボランティア活動なんです。
市長:様々な場所に行くことで、初めてその実情が分かることがあります。現場を見ないと対応策も生まれてこないし、良い発想も出てこない。様々な人の意見を聞くことによって、こんな意見もある、あんな意見もあると分かる。そうしながら全体の方向性を出し、理解を求め、協力していただくことが非常に大切だと思います。
内海:けれど、ボランティア活動のきっかけがあまりないんです。日々の生活の中で、若者が社会的に弱い人や国際的に立場の弱い外国の人と接する機会が少ないのが現状です。そこで、学校でボランティア活動ができる機会を得て、社会を学ぶことがとても大事になってきます。そのためには、教える側が、なぜボランティア活動をするのか理解していなければなりません。若者をボランティア活動に正しく導くには、指導者自らも、ボランティア活動をしていないとうまくいきません。学校現場とボランティア活動の場をつなぐ専門のコーディネーターを養成し、配置することが、今後、社会の中でますます重要になってきます。
市長:ボランティアなど、やりたいと思っていても、そのきっかけがなく、何をすれば良いのか悩む若者も多いと聞いています。若者はみんな大きな力を秘めています。誰かが方向付けをし、背中を押してあげる、その一歩を踏み出すための環境づくりが重要だということですね。私もそのように思います。
内海:そのとおりです。国際協力に関しても、人それぞれが様々な思いを持っていると私は感じています。それを形にしていくのがボランティアであり、それが国際協力の原理だと思います。現在、私は紛争のあった国の教育復興に取り組んでいますが、ボランティア活動は国境をも越える力を持っています。日本の多くの若者が、海外に目を向けた様々なボランティア精神を持っています。まちの人も色んな思いを持っておられる。それらの思いを空回りさせず、形にできるシステムを私たち大人がつくっていく必要があるのではないでしょうか。思いを形にするための筋道、それをうまく用意するためにボランティア教育が必要だと思っています。
市長:そういう意味では、本市はボランティア活動が非常に活発なまちです。平成20年には八尾市が満60歳の節目の年を迎え、その記念事業として市民自らが企画し、運営する「YAO市民博」が開催され、一年を通じて互いの思いや活動をコラボレーションし、共鳴させることで、魅力あふれる活動となっています。
内海:市長がおっしゃる市民のコラボレーションはすごく大切なことです。それがまさにボランティアの原理の一つで、今自分がいる世界をさらに広げ、越えていこうということです。それがぶつかり合うことで、新しい動きや思いが形になっていくのです。
市長:八尾は地域力や市民力が非常に強いまちですので、市民と行政お互いの役割を上手にコーディネートすることで、まちの良さをさらに高めていくことができると考えています。八尾にはその土壌が十分にありますので、今後も市民の皆さんとまちづくりや市政の課題をともに考え、解決していきたいと考えています。
内海:私は紛争のあった国の教育復興に取り組んでいますが、その中で強く感じるのは、子どもたちのニーズや思いを丁寧に知った上で支援していかなければならないことです。私は最初アフガニスタンで1年間、教育大臣のアドバイザーをやらせていただきました。色々と学校をまわりましたが、子どもたちは机も椅子もないところで勉強をしていましたので、教育政策として机と椅子を大量に作り、どんどん配るプロジェクトを推進しました。日本をはじめ世界中どこでもちゃんと机と椅子で勉強をしているのに、こんなに不便なことはないと思ったからです。
国際協力とは、その国の失われたもの、ある意味では普通の生活から落とされたものを普通の生活に戻すことなんだと、本当に当たり前のことを私たちはしているんだと、実はそのときは思っていたんです。
しかし、そのことを私が教える大学の学生に話をしたら、「普通の生活って、アフガニスタンと日本って違うんじゃないですか。本当に子どもたちが欲しいものは、机と椅子ではないのかもしれないですね。」と言われたんです。私はすごく身につまされて、それ以後、もっともっと学校現場に出て、本当に必要なものが何かを探る調査を始めました。子どもたちの身になって考えなくてはならないと。そしてある時、アフガニスタンの高校生ぐらいの女の子に外国からどんな支援が必要かと聞きましたところ、彼女は、「私たちは物を必要としているわけではない」と答えたんです。「物ではなく、私たちのことを忘れないで欲しい。つながっていて欲しい」と言うんです。「アフガニスタンはまさに世界で忘れ去られてしまった国であるが故に、こんなひどいことになってしまった」とその子が言うんですよ。この子たちに必要なことは、物ではなく、つながりであり、この子たちの学ぶ権利を保障する様々な施策が実は大切なんだと思いました。子どもたちの視点に立ち、本当に必要なものを考えていく目線が非常に大事だと思っています。
市長:そのとおりですね。自分たちの普段の目線や考えで物事を見てしまうと、実は見えていないものもあるということですね。相手の目線にちゃんと合わせないと、良いことであっても、結局、支援する側のエゴになるということでしょうか。
内海:これからは子どもを中心にした国際支援を本当に考えていかなければならないと思っています。学校を例にとれば、我々大人から見れば、学校は、教育の場であり、学習する場だと思っていますが、実は学校の持つ機能は、それだけに留まりません。地域の中心であり、そこを通して子どもも保護者も社会につながっている非常に重要なところなんです。
ですから、学校の機能を広く捉えることが大切であって、例えば災害発生時には学校をまず再建するんです。そして、その学校を基点として予防接種や食料の配布をすることが、今、国際的にも施策として出されているんです。ですから日本でも学校を中心に色んなことができる可能性があると思うんです。
市長:平成20年の春に市役所の組織機構改革をしましたが、八尾市には出張所が全部で10ヶ所あります。学校は、中学校が15校、小学校が29校、特別支援学校が1校ありますから全45校です。私はコミュニティのあり方の一つは小学校区単位と思っています。そこで、小学校区単位をひとつの区域として捉まえながら地域ごとの施策を打っていくため、各出張所及び本庁にコミュニティ推進スタッフとして、課長補佐級を中心に11名の職員を新たに配置しました。コミュニティ推進スタッフが地域の人との対話を通しながら、どんなボランティア活動があり、どんな仕組みになっているのか、そういうきめの細かい地域情報を把握し、市民とのさらなる協働を進めるため、現在、情報の集約を行っています。
内海:実は学校の授業に協力するボランティアというのがあります。その学校ボランティアについて、実際、現場で話をしましたが、一番多い意見は地域の人に学校現場に入ってもらったときに、先生との関係をどうするのかということについてです。これは世界的な現象です。
日本では、クラブ活動や図書館での本読みを学校ボランティアにやっていただくケースが多いんですが、アメリカでは逆で、教師とボランティアが一緒に新聞作りやコンピュータを教えるんです。日本では、地域の人が学校に入ってきたときに一番不満に思うのは、先生が十分なケアをしてくれないということです。先生が忙しいのは分かりますが、子どものことをどう一緒に考えていくのかという接点が、先生とボランティアの間でなかなかうまくできないことを学校ボランティアの人たちから聞きます。地域の人たちが学校に来たときにそれをコーディネートするソーシャル・ラーニング・コーディネーターみたいな人がいるといいのですが、多分そのような働きが、今後、学校に求められるのではないかと思います。
それともう一つ、幼稚園・小学校・中学校って分断されているでしょう。子どもは年齢と共に上っていくわけですから、そこのところをどうコラボレーションしていくのか。教育制度が切れているのはいい意味もありますが、弊害もあるんです。そこを広くつなげるようなモデルがあってもいいと思います。
市長:八尾の小学校では、生徒数が180人程度の学校から1000人程度の学校まであり、大きな格差が出ています。そこで再度、各校の適正規模を考える一方、幼小中の一貫教育的なものもできないかと考えています。子どもの数が少なくなっている中で、少人数学級という教育も必要ですが、集団の中で学ぶことができなくなってしまうのも問題になってきます。
内海:おっしゃるとおりです。まさに集団の中で、子どもたちをどううまく個性化し、かつ社会性をつけていくのかという、両方の非常に難しいところをやっているのが日本の教育です。イギリスでは、先生の机に一人ひとり子どもが来て、個別にこれをやりなさいというまさに個人指導で、グループ学習が非常に少ないんです。
日本は集団の中での教育に優れており、その中で、よい子どもたちが育っている側面があります。従って、ある程度の規模というのは、やはり学校にとって必要だと思います。八尾市の場合は都市化が進んでいますが、地方の場合、へき地では過疎化現象で非常に人口が少なくなり、学校の統廃合が次々と起きているんです。
かつてイギリスも人口がどんどん減った時期があり、スコットランドなどへき地の学校が次々と壊されていった時期があったんです。もともと学校は地域の文化の拠点みたいなところがあるので、特にへき地での廃校は望ましくないというような色んな論文がその時期に出たことがあります。先ほど申し上げたとおり、学校は教育の場以外にも色んな機能があると私は思っています。外からの文化が流れてくる、また新しい文化をもたらすところでもあるんです。そういう意味でも、小さい学校をどう活性化させていくのか。そのシステムづくりも必要だと思っています。
市長:内海先生がおっしゃるように、教育に新しい視点を取り入れ、低学年、中学年、高学年の児童らがコラボレーションし共に見て育っていくことが、やはりこれからの子どもらにとっては必要だと私も思っています。例えば、幼小中一貫教育の環境整備が実現した際には、大学という専門教育機関のお力を借りて、例えば大学の教育指定校みたいにそこを一つの官学連携の教育研究の場にしていただくとかして、子どもたちがいきいきとできる環境づくりにご協力をいただきたいんです。
内海:私が在籍していた大阪大学でも教育が好きな人がたくさんいます。しかし、残念ながら附属の学校がないんです。ですから大学で教育研究をする際には、色んな学校にお願いし協力を得て、そこを研究フィールドにさせていただいています。大学の方も長期間にわたり研究をさせていただける学校と良い関係を持てることを実は願っています。
市長:新しい学校づくりという視点でいけば、大学との連携であったり、地域のボランティアとの融合であったり、まだまだやることがたくさんあります。これらの視点をうまくコーディネートでき、八尾から新しい学校像を発信できれば、僕はありがたいと思っています。
内海:本当に地域と良い関係ができれば、我々の側から見ても高いレベルの研究にもなりますし、研究の成果はその学校で活かすことができます。結果、子どもたちの成長をより一層助けることができれば、大学としてはそれが使命ですから、とっても良いことです。
市長:現場を見て、体験して初めて得るものがいっぱいありますし、与えられるものも非常に多いと思います。
内海:大学の研究室には若い学生も多くいます。我々の方も勉強させていただきたいと思っていますので、そういう意味でも連携はとっても貴重なことだと思います。大学は、教育し、研究し、世界の知の財産にして、付け加えていくというのが使命のひとつです。学校現場の先生方も色んな形でそういうことができると思いますけれども、できにくいところはそれを専門とする大学がサポートとして連携していく。そういう関係があってもいいと思うんです。
市長:その点は、八尾の子どもたちにすれば願ってもないことです。
内海:子どもたちにとって、学校の先生とはまた違う、お兄さん、お姉さんが常に出入りするというのはとてもいいことだと思うんです。真に開かれた学校ということになりますし、学校教育の現場そのものがまさにボランティアの場にもなりますから。
市長:本当に学校というのは、無限の可能性を秘めた場所だと僕は思っています。
内海:いい教育というのは、30年、40年、50年後に、花開くことですから。
市長:本当に難しい社会環境となってきていますが、そういった中でも、市民と行政が夢や希望を共有しながら、市民全体が進んでボランティアを実践するようになれば、八尾のまちはより素晴らしいまちになると思っています。その土壌は八尾にはあると思っています。その利点を活かすためにも、市民をはじめ、企業や大学のお知恵をお借りし、産学官連携で共に情報の共有や学びの共有、知恵の共有をしっかりとやっていきたいと考えています。
内海:私もまた、共に色々と勉強をさせてください。
市長:ぜひ、がんばっていきたいと思いますので、様々な角度からお力をお貸しくださいますようよろしくお願いします。今日は、どうもありがとうございました。
平成20年9月29日