
今回のまちづくり達人
大西 健造(おおにし・けんぞう)さん
<大西 健造(おおにし・けんぞう)さん>
全国社会保険労務士会連合会副会長。大阪府社会保険労務士会会長。行政相談委員。中小企業の労務管理だけでなく、「年金」の専門家として、「年金記録確認第三者委員会」等に参加。年金問題の解決に取り組む。
市長:本日はお忙しい中、お越しいただき、誠にありがとうございます。
大西:私も長年にわたり八尾市内で事務所を開かせてもらっていますので、こうした機会を得られたことを光栄に思っています。
市長:本日は、「暮らしの中から考える安心なまちづくり」をテーマにお話を伺えれば幸いです。
大西:わかりました。今、市民の生活不安の一つで、我々社会保険労務士が取り組んでいる課題として、「年金問題」があります。年金制度は社会全体で市民生活を支える大切な制度ですが、国や会社で年金データの不備が発覚し、市民の方々に大きな不安を抱かせています。年金問題は約5,000万件の確認作業があり、社会保険庁だけでは解決するのが難しい問題です。
私が仕事としている社会保険労務士は、まさに年金などの社会保険制度のエキスパートとして全国で年金相談などを通じて、市民の安心な生活づくりを支援させていただいています。
社会保険労務士は全国で34,000人おりまして、年金問題が出てきた当時、無料で年金相談を行いました。当初は相談業務だけでしたが、来年1月から国からの委託業務として、府内8箇所の年金相談センターの運営業務が大阪府社会保険労務士会に任されました。
八尾でも東大阪の年金相談センターを通じて年金相談をさせていただきたいと考えています。
市長:私も年金記録問題をはじめとして、市民の皆さんの間に経済不安、雇用不安といったような、生活に対する不安が日々広がっているなと痛感しています。年金問題というと、年金保険料未納の問題もありましたが、今の制度は一定期間の保険料納付がないと年金がもらえない制度になっています。そういう制度の谷間にいる人を救うような、支払った額に応じた支給がされるような制度を社会保障として、国が作るべきだと思います。
大西:年金記録確認第三者委員会に参加していますが、年金記録の確認ですごい申請件数が上がってきます。中には気の毒な結果になっている方もおられますが、それでも申請者の35%ぐらいは救われています。「ねんきん特別便」など、年金記録の確認はいい制度だし、明らかに国のミス、会社のミスとかであっても、今までは救う方法が全くありませんでしたが、今は比較的救済されるようになりました。
市長:この6月から全国市長会の社会文教委員会に所属していまして、社会保障の内容も扱っています。東京で今年度1回目の会合があり、国民健康保険の問題が議論になっています。国保の財政が非常に大変で、市町村によって保険料に違いがあることがあり、八尾は中部9市で一番保険料が安いことが市民の皆さんに知られていません。
八尾市は国保の保険料の負担軽減のために、年間5億6千万円を一般会計から国保の特別会計に繰り出ししていますが、平成20年度に減免制度を一部見直しました。これは、本来、減免制度は特別な場合に適用すべきもので、公平性の観点からも保険料の軽減を図る場合には保険料率等において広く負担軽減を図ることが望ましいと考えたからです。国保の特別会計では8億円ぐらい累積赤字があるのですが、国保特別会計総額で300億円のうち、保険料で80億円、後の220億円は国などのお金で賄っていますが、市から法定繰入を含めて30億円入れているんです。
大西:単独の市町村でまかなうのは限度がありますね。
市長:国が医療を守るという観点から、国が国保会計にきちっと財源を入れるべきで、市長会を通じて国にしっかり提言していきたいと思っています。ところで、社会保険労務士さんについては、年金や健康保険の相談というイメージがありますね。
大西:最近は年金問題で一気に社会保険労務士も有名になりましたが、元々は、中小企業の労務管理をやるのが本来の仕事です。事業主には労働法規をよく知らない方も多く、労働契約法が施行されましたが、なかなか隅々まで浸透していないので、国の普及事業を社会保険労務士がやっているんです。
市長:国も中小企業支援の様々なメニューを出してきていますね。その申請業務を請け負うのも大きな仕事ですか?
大西:そうですね。急に景気が悪くなり、国も大きな予算を組んで雇用の安定を進めていますが、これも社会保険労務士の大きな仕事になります。雇用安定の制度は僕らから見てもいい制度で、これがなかったらもっと失業者が増えています。月の半分ぐらいしか仕事がない状態では働く人は生活できない、そうなると生活の保障をしてあげないといけない。助成金を使ってある程度まかなえて、労働者のみなさんも少し我慢していただいて、ワークシェアリングのような形でやっていただけると、事業主も負担が少しで済むというものです。
市長:そういう制度を知らない方が非常に多いので、社会保険労務士さんに相談してはいかがかと、お話する機会が多くあります。去年から急に景気が悪くなっていることもあって、商工会議所とタイアップして、緊急経済雇用対策連絡会議を持って八尾の経済状況を分析したり、会頭と一緒に企業訪問させていただき、雇用調整助成金の利用促進を進めています。できたら市と商工会議所で、冊子とか、パンフレットを作って、多くの中小企業のみなさんに見ていただいて、商工会議所や社会保険労務士さんの所など様々な所で相談を受けていただくような仕組みができたらと、考えているところです。
大西:国や行政も、生活不安に対して、例えば「ねんきん特別便」や、雇用調整助成金制度などの緊急雇用対策など、良い制度を設けて対応しているのですが、一般の方にはその制度が非常にわかりにくい。せっかくの制度をいかに皆さんに分かりやすく伝えるかが大きな課題ではないでしょうか。
市長:八尾市は全国有数の「ものづくりのまち」で、地域には中小企業が多いのですが、八尾や東大阪、柏原でも社会保険労務士さんの数は多いんですか?
大西:約220~230名です。八尾にもたくさんおられます。
市長:行政としても社会保険労務士さんと連携をしていきたいということで、市の様々な審議会委員や人権擁護委員としてご協力をいただいています。八尾の場合、総合相談でも社会保険労務士さんに相談を受けていただいており、感謝しております。
大西:他にも年金とか健康保険に関する委員に委嘱していただいていると聞いています。
市長:今年の春から就労と生活の相談事業として、各出張所に相談員を配置しながら専門家との連携ができるように仕組みを作っています。総合相談なので、就労や生活面など、ありとあらゆる相談に対応して、それぞれの専門のところにつないでいくという相談を市民の皆さんの身近で行おうと、取り組んでいます。
大西:それは非常にいい構想だと思います。社会保険労務士は去年、社会保険労務士法制定40周年を迎えさせていただきました。私は、社会貢献をできないような会や会員はだめだと言っています。会や会員で協力してできることは、全面的に協力させていただきますし、年金を筆頭に健康保険とか、労災とか雇用保険とか、生活にはいろんな身近な問題がありますから、行政との相談事業でのタイアップができればと思います。
市長:行政だけですべて問題を解決するのは難しい部分があり、社会保険労務士の方々をはじめとした専門家の皆さんとの連携は、安心なまちづくりのために必要不可欠な要素だと考えています。また、ぜひご相談させていただいて、専門家の皆さんと相談事業ができればと思います。八尾で会社を構えておられる方には、そういう非常に近いところで相談ができることが良いのではないかと思います。それがまた新たな仕事につながればいい。100%そうはいかなくとも、信頼関係につながればと思いますね。
大西:市民の方に信頼していただかないと、業っていうのは伸びないですね。先ほどの話に戻りますが、特に私の所属する社会保険労務士会でも、年金の無料相談をやらせていただいたときは、近所の人が誰かに聞いて来られたりして、たくさん相談に来られたということがあります。相談の中身はごく単純なんですけど、専門家に相談をしたということで、安心され喜んでいただけた。 やはり身近に顔と顔が見える関係が安心を生み、そこから互いに信頼が生まれます。年金問題でも、社会保険庁が来年1月から日本年金機構に組織が変わっていきますが、相談業務については、インターネットや文書による相談だけでは不十分だと社会保険庁に言っているんです。相談とは対面が基本だと、相手に直に理解してもらって相談は成り立つものであると考えています。
市長:社会がどんどん成熟する中で、人の心の大切さや、地域の温かさといった、身近に生まれる信頼関係と安心感がこれからのまちづくりには非常に必要だと思います。そして、社会貢献を通じて、信頼関係と安心感が作られるものだと私も思っています。先ほど先生に言っていただいたように、地域で年金相談を行うと言えば、そこへ人が来てくれるというように仕事以外の部分での社会奉仕であったり、そのことによって信頼関係と安心感が作られる、行政もやっぱりそうであると思っています。また、行政は様々な制度を設けていますが、それを市民の皆さんにうまく伝えきれていない部分があり、もっと親切丁寧に情報発信をしていかねばと考えています。インターネットも今はありますけれども、市政だよりを8月号から8ページ増やします。それで、今までのイベントだけが載っている「お知らせ」型というのではなくて、今日みたいにまちづくりに様々なお知恵を拝借する対談をさせていただくなど、ちょっと違う角度で情報発信をさせていただけたらなと思っています。それとやはり職員が積極的に外へ出て行くことも必要で、例えば敬老祝寿式に出向いたらそこには高齢者の皆さんがおられるわけで、その時に「何か困ってることがあったらすぐ言ってくださいよ。」と声をかける、あるいはブースを設け血圧や健康チェックを行うなど、また「国民健康保険の特定健診や、保健指導をぜひ受けてくださいよ。」と声をかける。そういった親切さや、そこで顔見知りになれば、また相談に行っていただけたりとか、行政にはそういう積極性や力強さがないとだめだと、職員には常に言っています。
大西:行政のみなさんの活動で、いろんなところへ出向かれるところで、私どもが力になれるんであれば、大いに活用していただきたい。例えば、病院に行って、その入院患者を対象にした相談会をやるとか、あるいは老人ホームを回っていろんな相談をやったりとか、みんなボランティアでやるんですが、非常に喜んでいただいているんです。先ほどの年金の問題でも、国民年金に関心を持たない層が増えています。根本解決には、学校の教育の中からもっと社会のしくみのようなものを教えていかないといけません。今、私のところの会では、高校生を対象にして、「年金とはこういうもんだぞ」という授業をやらせていただいています。高校生として、ちょっとぐらいは知識として知っておいてもらわないと、大人になっても理解を得られないということです。それを大阪府下の高校で10ヵ所ぐらいさせていただいて、だんだん数も増えてきています。
市長:府教委に学校人材バンクというのがあって、登録をしておくと各学校からこの先生に来てくださいという制度があります。僕は地域の周りの人たちをもっと学校にも呼べばいいと思っています。市民の方にもいろんな角度で、ボランティアをしていただきたいと思っています。また、年金問題に戻れば、入院しておられる人向けに相談ブースを設け、ちょっと時間があれば立ち寄れるなど、病院でも、そういう相談事業を定期的に行うこともできるのではと思います。そうやって考えたら連携できることが山ほどありますよね。
大西:私どもからお願いに寄せていただかないといけない部分もたくさんあります。特に来年1月からは私どもの会で年金相談センターの業務を受けますので、ぜひともお願いに寄せてもらって、どこか公的な場所で相談をできればということも考えています。
市長:ぜひ、よろしくお願いします。こうやって専門の立場の方からいろんな話をお聞きしていますと、夢や希望がわいてきますね。行政と民間の協働で、市民の方々に喜んでもらえる「社会貢献」を合言葉にして、互いに市民に認められ、喜んでもらえる仕組みになれば一番いいですね。
大西:市民の方に理解をしていただかないと、仕事っていうのは伸びないです。うちの会員の中にもボランティアの仕事ばかり取ってくるという人がいますが、そういうことをしない業界は社会的には認めてもらえない。これは社会保険労務士会の連合会長がいったんですが、年金問題のときに、まずマスコミに向かって、「ただでうちは相談を受ける」と、発表したんです。これが非常に大きな反響があって、会員から「連合会長自らただでやるとは何事か」と苦情も出たんです。しかし会長は、いまこれだけ国民が不安を抱いている中で、専門家がそんなことを言っていたら、誰も相手にしてくれないよ。今に見ておけ、絶対将来これが大きな力になるよと言われた。まさにそのとおりでしたね。
市長:最近の話ですが、新型インフルエンザの影響で修学旅行が中止になったとき、旅行会社でもキャンセル料は取りませんよという会社が出てきました。社会が直面している新型インフルエンザに対する危機管理のため拡大感染を阻止しようという動きの中で、苦渋の判断で旅行を取りやめるという人たちにキャンセル料まで取れないという、社会的使命から出た行動だと思います。
大西:私はまちづくりは行政だけの仕事ではないと考えています。民間もある程度の大きさの組織になってくると、社会貢献というのは当たり前のことですし、それができない業界っていうのは伸びないと会員に言っているんです。市民の方の身近な問題を解決するために、行政と専門知識のある専門家が連携することで、より大きな力になるのではないでしょうか。今日もいろんなことをお聞かせいただいて、協力させていただけることがあるかなと思います。これからも社会貢献を合言葉に、市民の方が安心して生活を送れる社会づくりに寄与したいと考えています。
市長:まさしく仕事も信頼だし、行政も信頼、人と人、人間と人間の信頼関係の中で今の世の中が成り立っていますので、それがなくなれば社会が崩壊し、すさんだ世の中になってしまいます。人と人との絆がさらに深まることによって、いい信頼関係が出来上がり、もっといい社会ができると思っています。
両者:今日はどうもありがとうございました。

平成21年6月30日