戦争体験談「大阪大空襲」髙萩 太一
大阪大空襲
髙萩 太一
1945(昭和20)年6月1日と7日の大阪大空襲により、木造の寄宿舎で生活していた私たち寮生の身の危険を感じられた学校側は、鉄筋コンクリート造の本校舎三階の教室に寄宿舎を代替移転させた。あれはたしか6月15日の大空襲の前夜だった。私は当時の寮長と、「また空爆され、もし死ぬことがあったら、お互い骨を拾いあいましょう」と話し合い、就寝した。
翌15日の朝、寮生のほとんどは高鷲農場へ農作業に出かけて行った。私は少し前から脚気で体調を崩していて、本校の図書室勤務を命じられたため、学校に残っていた。警戒警報が発令され、先生と木造寄宿舎の警備に出かけた。ほどなくして、空襲警報のサイレンが鳴り、B29の編隊が飛来してきた。先生と学友の一人とともに、寮の東側の糞尿の汲み取り口のそばに立っていた。何とも形容しがたい、今まで聞いたこともないもの凄い轟音を立て、焼夷弾が落下してきた。三人とも足がすくんで動けず、近くの寮の中に避難することもできず、「伏せろ」の声を聴いたかどうか定かでないが、汲み取りの蓋の間へ頭を抱えてうつ伏せに伏せた。臭いなどと言っている場合ではなかった。近くで油脂焼夷弾が炸裂し、破片が三人の頭巾や背中、腰などに飛び散ってきた。慌てて手拭いなどで互いにはたいて、油脂を消した。空にはB29の爆音が轟き、焼夷弾が次々に落下してくる。「逃げろ」先生が叫び、ご自身が先頭に、寮の中の廊下を東から西へ全速力で走った。寮の西の入り口から外へ、南側の軒下を通りまた東へとUターン。ちょうど寮の東西の中間の位置に防空壕が。三人で飛び込んだ。先生も「危ない、危険だ」と叫び、B29の爆音や焼夷弾の落下音が止むのをじっとかがんで待った。考えてみると、廊下を西端まで駆けることなく、先ほど伏せた場所から南側軒下を通って防空壕へ入った方が近道で、短時間で済むのを、慌てて遠回りしたのであった。B29の編隊の一部は、鶴橋、天王寺駅付近に焼夷弾投下攻撃をして、生駒山を越え、熊野灘へ退去したとのことだった。
爆音も遠のいたので外へ出た。寮の東隣の消防学校が燃えていて、手のつけようもない。北側を見ると、学校長などの官舎近くの家屋まで火が迫ってきている。他の建物にも燃え広がる恐れが十分にある。「消火だ」との声で私も駆けて行った。火はこちらへ燃え移ってくるようだ。家屋の軒下の水槽の蓋を開けると、きれいな澄み切った水が一杯貯めてある。一瞬ためらったが、急いでバケツで水を汲もうとすると、家の主人が「その水使わないで。鍋や釜、茶びんを入れてある。燃えたら明日から食べられへん」と悲痛な叫び。「鍋や釜、家とどっちが大事やねん。使うよ」と叫んで、その水をバケツリレーした。懸命に無我夢中で消火にあたったおかげで、燃え広がるのは防げた。思えば、当時は物価統制令で、鍋や釜などの金物類は失くしたら二度と手に入らないかもしれない貴重品だった。私の実家は当時「よろず小売商」で、金物類など主力に販売していたので、実情はとくと知っていた。鍋釜などを火災から守るため、貯水槽に沈めて隠していたのを暴いてその水を使う。主人にしてみれば、突然の緊急事態だったとはいえ耐えられなかったのであろう。それなのに強引に貯水を使ったのである。私たちは若かった。血気盛んだった。
やれやれ、ほっと一息ついて北の方を見ると、寮の位置から低地になっている四天王寺方面にかけて、よく見渡すことができた。北河堀町(現在の天王寺中学校付近)で大きな火災が発生している。ゴーと、今まで聞いたことがないすごい音を立て、白昼なのに赤い火柱が高く燃え上がり、黒煙がもうもうと天を焦がしている。いつだったか地獄絵を見たことがあるが、まさに地獄とはこのようなものかと思い、空恐ろしくなった。人の力ではどうすることもできないような勢いで燃え広がっていく。空が真っ黒になり黒い雨が降り出した。私たちは、へとへとになって鉄筋校舎に帰ってきた。教室に戻ると、学友の一人が腰に焼夷弾をうけて病院に搬送されたと聞いた。
戦争も終わり、ずっと後になって悲しい話を耳にした。空襲前夜、「骨を拾いあおう」と語り合った寮長が、この空襲で爆死したとのことだった。やりきれない気持ちになりながらも、日々の生活にかまけて、つい時間が経ってしまった。時折、ふと脳裏をかすめ、気にかかっていた。2025年8月15日、各地で戦没慰霊祭が施行されているのを知り、ついに思い切って大阪教育大学へ、当時の戦没者等の様子を問い合わせたが、「不明」と良い返答をいただくことはできなかった。思えば、八十年も昔のこと。事務関係者も変わり、調査依頼も無理だったのであろう。私も近く九十九歳を迎える高齢で、行動もままならず、なぜもっと早く調べ、寮長にお参りしなかったかと、悔やまれてならない。
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